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小柴胡湯の効果・適応症
①小柴胡湯は、体力(胃腸)・腹力が中程度で、上腹部が張って苦しく肋骨弓下部に抵抗・圧痛(胸脇苦満)が認められ、しばしば食欲不振,口中不快感,舌白苔,時により微熱、悪心・嘔吐などがあるものの次の諸症に使用します。
諸種の急性熱性病、肺炎、気管支炎、感冒、胸膜炎・肺結核などの結核性諸疾患の補助療法、リンパ腺炎、慢性胃腸障害、産後回復不全。
②慢性肝炎における肝機能障害の改善
成人では、1日に7.5gを2~3回に分割して、食前または食間(食後2時間)に水、または白湯でのむか、またはお湯に溶かして飲みます。
ただし、使用に関し注意すべき合併症が指摘されている漢方薬であるため、そちらも紹介します。
警告
1.本剤の投与により、間質性肺炎が起こり、早期に適切な処置を行わない場合、死亡等の重篤な転帰に至ることがあるので、患者の状態を十分観察し、発熱、咳嗽、呼吸困難、肺音の異常(捻髪音)、胸部X線異常等があらわれた場合には、ただちに本剤の投与を中止すること。
2.発熱、咳嗽、呼吸困難等があらわれた場合には、本剤の服用を中止し、ただちに連絡するよう患者に対し注意を行うこと。(副作用参照)
禁忌
次の患者には投与しないこと
1.インターフェロン製剤を投与中の患者
2.肝硬変、肝癌の患者(間質性肺炎が起こり、死亡等の重篤な転帰に至ることがある)
3.慢性肝炎における肝機能障害で血小板数が10万/mm3以下の患者(肝硬変が疑われる)
急性熱性疾患への小柴胡湯の効果
体力(胃腸)・腹力が中程度で、上腹部が張って苦しく肋骨弓下部に抵抗・圧痛(胸脇苦満)が認められる例を目標に用います。
一般に,しばしば食欲不振,口中不快感,舌白苔,悪心・嘔吐などの症状を伴う場合、急性症状では交互に起こる発熱と悪寒(往来寒熱),軽症では微熱が目標となり,咳嗽,喀痰,鼻閉,鼻漏,咽頭・扁桃の発赤,リンパ節腫脹などを呈する例に用います。
虚弱な小児でよくリンパ腺・扁桃腺が腫れる場合にも使われます。
症状による使い分けとしては、小柴胡湯は小児のややこじれた感冒や熱がある発病から3-4日経った急性気管支炎で使用されます。こじれた感冒に使用する場合、胃腸が虚弱な場合は香蘇散、症状が続いて気難しい状態には竹茹温胆湯が適しています。
急性気管支炎では、咳・鼻水があって水様痰には小青竜湯、声がかれて気道の乾燥感と咽頭の刺激感を伴うような場合は麦門冬湯を使用します。症状は似たものの下痢を伴う小児は四逆散を用います。神秘湯は熱・痰がなくても投与できる調和の取れた方剤です。
成人での気管支炎に対しても小児の気管支炎の方剤と同様です
が、神秘湯は麻黄を含むため心疾患のある場合は注意が必要です。
類似処方との使い分けで見ると、
小柴胡湯と使用目標が似ているものには、大柴胡湯、四逆散、柴胡加竜骨牡蠣湯、柴胡桂枝湯があります。
体力・腹力ともに充実して症状が強く、便秘がある場合は大柴胡湯が適し、便秘がないが腹直筋が緊張し、肩や首、背中に凝りを伴う場合は四逆散が適しています。
体力・腹力ともに中程度~やや低下していて腹直筋が緊張し、肩こり、発汗傾向などがある場合には柴胡桂枝湯が適しています。
症状が似ているものの、腹部大動脈の拍動を感じ、不安・不眠などの精神神経症状を伴う場合には、柴胡加竜骨牡蛎湯が適しています。
慢性肝炎への小柴胡湯の効果
小柴胡湯は、主薬である柴胡の主成分であるサイコサポニンのもつ抗炎症効果が期待できる柴胡剤の基本となっているもので、肝炎の治療薬として有名です。また構成生薬の一つである黄芩も抗炎症作用があり、生薬を組み合わせることによって、肝障害抑制作用、間血流量低下抑制作用、肝再生促進作用、肝線維化抑制作用、免疫調整作用、免疫複合体除去作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用示します。
また胃粘膜障害に対する作用や、胃酸・ペプシンの分泌抑制作用があることから、慢性的な胃腸障害や、産後の回復不全、風邪の後に起こるような耳鳴りなどへも効果が期待されています。
慢性肝炎への使用は、その症状(疲労倦怠感、眼の疲れ、肩こり、嘔気・食欲不振・腹部膨満感、イライラ、多怒など)が小柴胡湯の証そのものと合致しており、消炎作用や細胞うまく保護作用を期待して慢性肝炎に広く使われてきました。肝癌の増殖抑制作用をサイコサポニン(柴胡)、グリチルリチン(甘草)、バイカレイン・ハイカリン(黄芩)が示すことがわかっています。
肝疾患ヘの他処方との使い分けとしては、類似処方との使い分けで見ると、
体力・腹力ともに充実している肝機能障害には大柴胡湯が適します。
体力が中程度の肝硬変には、茵蔯蒿湯が、体力がやや低下~中間の慢性肝炎から肝硬変までには柴胡桂枝湯が適しています。
体力がやや低下~低下した肝炎~肝癌に伴う倦怠感や食欲不振には補中益気湯が、体力が非常に低下した慢性肝炎~肝癌に伴う貧血、倦怠感、食欲不振には、十全大補湯が適しています。
小柴胡湯の副作用・証が合わない場合の症状
併用禁忌
小柴胡湯は、併用が禁忌とされている薬剤があり、いかに示します。
インターフェロン製剤:インターフェロンα、インターフェロンβ
これらは併用によって間質性肺炎があらわれることがあるため禁忌とされています。
副作用
小柴胡湯は、間質性肺炎が生じる可能性があります。
その初期症状である発熱、咳嗽、呼吸困難、肺音の異常(捻髪音)等があらわれた場合には、本剤の投与を中止し、速やかに胸部X線等の検査を実施するとともに副腎皮質ホルモン剤の投与等の適切な処置を行うこととあります。
この初期症状を感じるときには、速やかに小柴胡湯の服用を中止して、ただちに医師へ連絡するということを覚えている必要があります。
小柴胡湯には、甘草が含まれています(1日量3包に2.0g)。そのため、偽アルドステロン症を起こす可能性があります。主な症状としては、低カリウム血症をおこし、血圧増加、むくみ、体重増加などが表れることがあります。
低カリウム血症の結果として、ミオパチーを起こす可能性があります。症状としては、脱力感、手足のけいれんなどがあります。
肝機能障害や黄疸が現れることがあります。その他、食欲不振、下痢、腹痛などが起こる可能性があります。
証に合わない場合
著しく体力の衰えている患者では、副作用があらわれやすくなり、その症状が増強される可能性があります。
慢性肝炎における肝機能障害で血小板数が15万/㎜3以下の患者では、肝硬変に移行している可能性があります。
小柴胡湯の生薬の組み合わせと効能
柴胡(サイコ)、半夏(ハンゲ)、黄芩(オウゴン)、大棗(タイソウ)、人参(ニンジン)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)の7種で構成されており、柴胡を主薬とした柴胡剤の一つで、主成分サイコサポニンのもつ抗炎症作用が期待されています。
小柴胡湯には肝障害抑制作用、肝血流量低下抑制作用、肝再生促進作用、肝線維化抑制作用、免疫調整作用、免疫複合体除去作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用、胃粘膜障害に対する作用や、胃酸・ペプシンの分泌抑制作用があります。
薬効成分としては、サイコサポニン(柴胡)、ジジファスサポニン(大棗)、グリチルリチン(甘草)、バイカレイン・バイカリン(黄芩)があります。
肝機能に働く生薬としては、柴胡や黄芩、抗アレルギー作用を持つ生薬には甘草や大棗、吐き気を抑える働きがある生薬には、半夏や黄芩があります。
肝機能障害への使用が間質性肺炎の死亡例から、使用が慢性肝炎の肝機能障害に絞られた後、現在慢性肝炎への使用はかなり減ってきているようです。
インターフェロン療法でウイルスが消えなかった患者や合併症でインターフェロンが使えない人、高齢の患者などが小柴胡湯の投与対象となっているようです。
小柴胡湯のまとめ
小柴胡湯は、肝炎といえば小柴胡湯と使われていた時代に間質性肺炎の副作用で死亡例が出てからは、使用量が減った処方と言われています。
しかし、慢性肝炎に対してだけでなく、体力が中間程度でやや長引いている風邪や急性の熱性疾患にも使いやすいと言われています。
副作用の話が強調されてしまいがちですが、使用の際にはしっかりと注意点を聞いて初期症状を確認してから上手に使用してほしいものです。