柴胡加竜骨牡蛎湯の効果・適応症

柴胡加竜骨牡蛎湯は、体力(胃腸)が比較的あり、心悸亢進、不眠、いらだち等の精神症状のあるものの次の諸症に適しています。
高血圧症、動脈硬化症、慢性腎臓病、神経衰弱症、神経性心悸亢進症、てんかん、ヒステリー、小児夜啼症、陰萎
成人では、1日に7.5gを2~3回に分割して、食前または食間(食後2時間)に水、または白湯でのむか、またはお湯に溶かして飲みます。

 

 

精神神経症状への柴胡加竜骨牡蛎湯の効果

柴胡加竜骨牡蛎湯は、体力があり肥満傾向がある人の精神不安やいらいら、抑うつ、不眠などの多彩な精神神経症状によく使用され、特に高血圧症患者のストレス、緊張の緩和などに効果があります。

 

 

ストレスがかかると身体に何が起きるのか?

生体においては、過度のストレスがかかると、身体のバランスが崩れるのを防ぐために様々な反応が起きます。しかし、長期に過度のストレスがかかると、そのストレスに対応しきれなくなり、疾患が発生すると言われています。
ストレス対応処理を行う1つルートとして「視床下部―下垂体―副腎の軸」というものがあります。この軸がストレスによって活性化すると、副腎皮質からグルココルチコイドという物質の分泌が増え、グルココルチコイド受容体(GR)を介してストレスに対処・適応していきます。

 

ただし、このグルココルチコイドが過剰になると身体の免疫機能を抑制したりするため、濃度を正常に戻すべくGRに働きかけて自らの濃度を低下させます。

 

このバランスを保つための働きが、過剰なストレスが長期にわたるとGRの働きが低下することが分かっています。

 
脳内においては、情動や意欲、認知機能を調節する前頭前野という場所で、GRはストレスで活性化されます。

 

結果として、このGRによって制御されている神経伝達物質のドパミンやセロトニンが減少して、不安や抑うつが発生すると考えられています。

 
抗不安薬や抗うつ薬は、この神経伝達物質に着目し、神経間隙から神経への再吸収を行うトランスポーターという所をブロックして、神経内の濃度を高く維持できるようにする薬です。
これに対して柴胡加竜骨牡蛎は、働きが低下したグルココルチコイド受容体に働きかけて、低下した機能の改善を促すことで不安症状や抑うつを改善すると言われています。
一方、柴胡加竜骨牡蛎は、向精神作用だけでなく、血圧降下作用、抗動脈硬化作用、心悸亢進に対する効果が報告されています。これは、ストレスによる前頭前野の機能低下を改善するという抗ストレス作用を示すため、ストレスが増悪要因となる疾患に効果を示し、適応となっていると考えられています。
類似処方との使い分けでは、精神神経症状が似ているものの体力が虚弱なタイプは桂枝加竜骨牡蛎湯を使用します。体力はやや低下~中程度で、いらいらが強く怒りっぽいタイプには抑肝散を使用します。使用タイプは似ているものの、精神神経症状が顕著でない場合は大柴胡湯を使用します。精神神経症状が似ているものの、体力が低下して、冷えや口の渇きや首からの上の発汗が認められる場合には、柴胡桂枝乾姜湯が適しています。

 

 

柴胡加竜骨牡蛎湯の副作用・証が合わない場合の症状

副作用
柴胡加竜骨牡蛎湯は、間質性肺炎が生じる可能性があります。
その初期症状である発熱、咳嗽、呼吸困難、肺音の異常(捻髪音)等があらわれた場合には、本剤の投与を中止し、速やかに胸部X線等の検査を実施するとともに副腎皮質ホルモン剤の投与等の適切な処置を行うこととあります。
この初期症状を感じるときには、速やかに柴胡加竜骨牡蛎湯の服用を中止して、ただちに医師へ連絡するということを覚えている必要があります。
検査値の異常を伴う肝機能障害、黄疸がおきることがあります。異常が見られた場合には、使用を中止し、病院へ受診し適切な処置を受ける必要があります。
や過敏症が現れることがあります。過敏症:発疹、発赤、痒みがあらわれたときには使用を中止して医療機関を受診してください。

 

 

証に合わない場合

体力が中程度~体力がある場合に用いられるため、体力が低下しているタイプでは他の方剤を選ぶ方が良いかもしれません。
また、類似処方の小柴胡湯では、インターフェロンαとの併用による間質性肺炎の副作用が多く報告されているため、念のため併用薬には注意をした方がいいでしょう。

 

 

柴胡加竜骨牡蛎湯の生薬の組み合わせと効能

柴胡(サイコ)、半夏(ハンゲ)、桂皮(ケイヒ)、茯苓(ブクリョウ)、黄芩(オウゴン)、大棗(タイソウ)、人参(ニンジン)、牡蛎(ボレイ)、竜骨(リュウコツ)、生姜(ショウキョウ)の10種で構成されており、柴胡、竜骨、牡蛎、そして茯苓が主体的になっていると考えられています。

 

柴胡加竜骨牡蛎湯は、サイコサポニンのもつ精神神経症状への作用が期待されています。黄芩は、柴胡と協力して鎮静する効果があります。竜骨、牡蛎は安静、鎮静作用に優れており、茯苓とともに用いることで、安心、鎮静作用がさらに優れ、心悸亢進などの改善に寄与します。

 

また、半夏・人参・大棗にも高ストレス作用があり、生姜も中枢抑制作用等があることが分かっています。

 

 

柴胡加竜骨牡蛎湯のまとめ

柴胡加竜骨牡蛎はその作用についても研究が進んでおり、抗不安薬や精神神経用薬と比較されています。

 

ストレスによる抑うつ状態では抗うつ薬との比較試験では同様に働き、ストレスによる不安で抗不安薬と比較した結果では、柴胡加竜骨牡蛎は改善作用を示したが、抗不安薬は悪化させる結果になっています。

 

このような結果からも、柴胡加竜骨牡蛎湯は、類似処方の桂枝加竜骨牡蛎湯とともに、現代の高齢化やストレス社会において活躍する場が増えると考えられれています。